未知なるマリアージュの世界へようこそ!

私の超オススメワインをご紹介します🥂🍷✨

〝産地〟ちがいには、〝経年〟ちがい

わたし流の鮨の楽しみ方。それは事前に、同じ魚種で、産地の異なる鮨ダネを依頼しておくこと。ワインのテイスティングとおなじように、〝産地〟違いを比較することで、より味わい深くそれぞれの個性を楽しめるようになります。あわせて、同じ造り手の5年以上の「経年差」があるシャンパーニュ2種も事前にリクエスト。鮨ダネの〝産地〟ちがいには、〝経年〟ちがいのシャンパーニュをあてると、それぞれの微妙な差異がくっきり浮かび上がるからです。


今回は、鯵(あじ)と≪ポル・ロジェ≫。繊細さに加え、味わいのバランスがひときわ優れているポル・ロジェは、鯵の苦み、甘み、青魚特有の風味、すべてに呼応します。小ぶりの兵庫県垂水(たるみ)産の鯵に合うのは、〝現行〟ポル・ロジェ。光り物ならではの深いコクと苦みが、フレッシュな酸とクリアな旨みによって、引き立ちます。一方、一本釣りで神経締めされた、和歌山県加太(かだ)産の鯵。こちらは〝一世代前〟のポル・ロジェと。数年差で生まれるわずかな甘みが、鯵に溶け込むことで、透き通るような魚の旨みが一層際立つからです。


鯵にかぎらず、ウニやアワビなども産地別に食べ比べると、それぞれの特徴や違いがよくわかります。ただし、この楽しみ方は、鮨屋の大将との信頼関係があってこそ。まずは足しげく通って、大将と仲良くなってから鮨ダネもシャンパーニュもリクエストするようにしてくださいね🥂🍣

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能ある〝山鶉〟は爪を隠す🦅

シャンパーニ≪ウイユ・ド・ペルドリ≫で有名な≪ジャン・ヴェッセル≫は、業界屈指の技術力を誇ります。ウイユ・ド・ペルドリとは「山鶉(やまうずら)の目」という意。淡いサーモンピンクが山鶉の目の色に似ていることで、その名がつきました。


注目すべきは、その製造方法。ロゼ・シャンパーニュは白ワインに赤ワインを混ぜる「ブレンド法」が一般的ですが、ウイユ・ド・ペルドリは「直接圧搾法」により造られます。黒ぶどうを果皮ごと圧搾し、うっすら色付いた果汁を発酵。手間とたかい醸造熟成技術を要するため、生産者は極わずかです。さらには、ドザージュ(補糖)をおこなわないシャンパーニュも手掛ける、ジャン・ヴェッセル。ブドウ本来の品質と、生産者の腕だけがものをいいます。


わたしがジャン・ヴェッセルに敬意をはらう最大の理由は、その真摯な〝姿勢〟。ウイユ・ド・ペルドリを「ロゼ」ではなく『白』シャンパーニュ、補糖なしを「ノン・ドザージュ」ではなく『エクストラ・ブリュット』としてリリースしている点です。「ロゼ」や「ノン・ドザージュ」のほうが稀少性がたかく、より高値の取引が期待できそうなものの、あえてそれをしない。


ジャン・ヴェッセルのシャンパーニュを飲むといつも、目先の利益を追究することよりも、志のほうがはるかに大切ということに気づかせてくれます✨✨

 

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知られざる「レ・ロンジェロワ」という畑

ブルゴーニュといえば、白はシャルドネ、赤はピノ・ノワール種。これら単一品種のワインで、とくに重要となるのが「村」です。およそ50の村々に固有のテロワール(気候、地形、地質)があり、それがワインの個性を形づくっているからです。


コート・ド・ニュイ地区の最北に位置し、冷涼感とフレッシュ感が特徴の赤ワインを生み出すのが「マルサネ」村。なかでも、わたしのお気に入りの畑が≪レ・ロンジュロワ≫ 。レ・ロンジェロワ畑の最大の特徴は、バトニアンのプレモー石灰岩という地質で、繊細なミネラルと複雑味を付与します。「ロマネコンティ」や「ラ・ターシュ」といった傑作ワインもこの土壌から生まれるのです。


おすすめは≪ドメーヌ・コワイヨ≫ のレ・ロンジュロワ。ストイックなまでに、ぶどうの〝完熟〟にこだわるクリストフが3代目当主を務めます。房(ふさ)単位でぶどうの成熟具合を把握し、絶対に完熟した果実しか収穫・醸造しないという徹底ぶり。その証に、どのヴィンテージも、マルサネらしい冷涼感と、凝縮感ある力づよい果実味がみごとに調和しています。「シャトーブリアン」と合せると、濃厚な赤身の旨みと品ある脂のコクが増幅し、炭火の芳ばしさとトリュフの芳香が交差します。


「マルサネ」は、赤ワインの銘醸地であるコート・ド・ニュイ地区で、グラン・クリュ(特級畑)もプルミエ・クリュ(第1級畑)も有さない唯一の村。レ・ロンジュロワを含む14の畑を、プルミエ・クリュとして申請中ですが、15年以上たったいまでも承認に至っていないのが現状です。「格付け」がひとつの指標になることは確かですが、それにとらわれず、自分の五感で〝おいしい〟と思う「畑」を発掘することこそ、ワインの楽しさであり、マリアージュの世界を広げることにも繋がるのです🍷🍴✨

 

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〝幾星霜〟を感じるエチケット🍾

現在リリース中のローランペリエNVと1980年代のローランペリエNV。並べると、後光を放つかのように壮観です。NVとはノン・ヴィンテージシャンパーニュのこと。ローランペリNVは1950年以降、およそ10回ほどの「エチケット」のデザイン変更が行われています。エチケットとは、シャンパーニュのボトルについているラベルのことです。このエチケットには、シャンパーニュの名称や造り手、産地などの情報が記載されていますが、たとえヴィンテージ記載のないNVであっても、エチケットをみればいつ頃リリースされたものかがわかります。


そんな時の重みを感じながらマリアージュを楽しむことも、ワインならではの醍醐味のひとつです。40年の歳月を得たローランペリエNVは黄金色を呈しています。刻一刻と時を刻みながら、シャンパーニュは瓶のなかでゆっくりとそしてまったりと熟成を遂げていきます。幾星霜(いくせいそう)を経なければ、決して醸しだすことのできない神秘的な世界観がそこにあります。


ローラン・ペリエと「白身」は、わたしの定番マリアージュ。ヒラメの昆布締めには〝幾星霜〟シャンパーニュ、今朝水揚げされたばかりのヒラメにはフレッシュシャンパーニュがぴったりです🥂✨

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ワインだけでなく、食材のテロワールも意識する

テロワールはさまざまな名産品を育みます。テロワールとは、ワインの味わいの決め手となる、土壌や地形、気候、風土などぶどう畑を取り巻く環境のこと。ワインだけでなく、食材のテロワールも意識すると、マリアージュの見識をさらに深めることができます。


たとえば、篠山牛にはどんなワインを合わせるべきでしょうか。篠山牛とは、黒豆で有名な丹波篠山で育てられる最高級の黒毛和牛を意味します。神戸牛を筆頭に、但馬牛、三田牛、淡路牛など、兵庫県はブランド牛の宝庫ですが、なかでも篠山牛は舌鼓をうつほどのおいしさ。とくにヒレ肉は上品な獣味が濃縮されており、すーっとナイフがすべり落ちるようなやわらかさが特徴です。


その究極のおいしさの秘密は、恵まれた自然環境にあります。四方を山に囲まれた盆地特有の寒暖差と、山々から流れるミネラル分を多く含んだ粘土質の土壌でつくられる飼料のおかげで、風味ゆたかな味わいに育つのです。その丹波篠山のテロワールに注目すると、3つのキーワードが浮かび上がってきます。


それは、

(1)昼夜の寒暖差が激しい(2)粘土石灰質の土壌(3)日照時間が長い

です。


これらの共通するテロワールでつくられたワインを探すと、その食材との相性はすこぶるよくなるから不思議です。そのひとつが《ポティネ・アンポー/モンテリー1erクリュ・レリオット2010》。モンテリーとはフランスのブルゴーニュ地方に位置し、ヴォルネイ、ムルソー、オークセイ・デュレスといった銘醸地に囲まれた村です。ヴォルネイの上品さ・繊細さとオークセイ・デュレスの凝縮感をあわせ持ちながら、とりわけ秀作年である2010年の土と栗の花を混ぜた野生的な香りが、大自然の篠山のテロワールと重なり合います。


ちなみに、モンテリーは、コート・ド・ボーヌでももっとも長い日照時間を誇り、神戸市と比べて丹波篠山市も、年間を通して約1.5倍の日照時間となっています。


太陽の恵みをたくさん浴びながら、自然豊かな環境でストレスなく育てられると、牛もワインもまろやかで上品な味わいになるから不思議ですね☀️🐃🍷

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「ブラン・ド・ブラン」VS「ブラン・ド・ノワール」

一般的には、シャンパーニュに使用されるぶどうの品種は3種類。 白ぶどうのシャルドネと黒ぶどうのピノ・ノワールピノ・ ムニエです。なかでも、白ぶどうだけでつくられるものは「ブラン・ド・ブラン」、黒ブドウだけでつくられるのが「ブラン・ド・ノワール」と呼ばれます。いうならばブラン・ド・ブランとブラン・ド・ノワールは、〝対称的な〟シャンパーニュといえますが、どちらも手間、コスト、そして卓越した醸造熟成技術が不可欠であり、品種の特徴とテロワールを色濃く反映する珠玉のシャンパーニュといえるでしょう。


その双方のマリアージュの観点からいえば、「車海老」という鮨ダネは稀有の存在になります。どちらにも抜群に相性がよいからです。車海老の独特の甘みは〝グリシン〟というアミノ酸によるものですが、ブラン・ド・ブランなら、冷涼感ただよう豊富なミネラル(塩味)で、車海老本来の上品な甘みを引きたてます。これは、味の対比作用といわれるものです。一方、ブラン・ド・ノワールは、黒ブドウのまろやかな甘みを重ね、複雑で深みあるコクと旨みを生み出します。こちらは、味の相乗作用ですね。夏の車海老はグリシン(甘み)が減少し、アルギニン(苦み)が増加するので、どちらも相性のよさは素晴らしく甲乙つけがたいくらいです。


車海老の純粋な甘みを引き立てるブラン・ド・ブラン。

濃厚で、凝縮感ある甘みにするのがブラン・ド・ノワール


みなさまはどちら派でしょうか🍾🥂

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人類の叡智から考察する

「燻製」の香りと「シャンパーニュ」の香り。食欲をそそるのはなぜでしょうか。それは、どちらも先人の知恵と工夫がつまった香りだからです。


「燻製」の歴史は、人類が狩りをしていた時代までさかのぼります。食料の生肉(魚)を少しでも長持ちさせるために、太陽の下で乾燥させたのが始まりだといわれています。それを焚き火で燻(いぶ)すことで、さらに保存性がたかまり、煙の香りで風味が格段に増したというわけです。


一方「シャンパーニュ」は、気温の低下でアルコールが発酵が止まってしまったワインを、樽のまま放置。発酵過程でできた二酸化炭素がワインに溶け込んで発泡していたのが始まりです。それを意図的につくり出したのが、瓶の中に酵母をいれて密閉する「瓶内二次発酵」という方式。シャンパーニュの香りを、ブリオッシュやパンドミーと表現するのは、この酵母イースト)に由来します。また、芳ばしいロースト香は、樽由来。樽は、木材を丸くしならせて繋ぎ合わせるのですが、材質が硬いため、内側を火で炙(あぶ)ってやわらかくするのです。その際にできる〝焦げ〟の成分がシャンパーニュに溶け出し、芳ばしい芳香を付与します。


そんな芳醇な香りを強く感じるのは、20年近く時を刻んだ≪フランソワーズ・ベテル/ブリュット≫。霜につよく耐寒品種であるピノ・ムニエを主役にしたシャンパーニュです。長期熟成によりシャンパーニュの成分の一部が〝炭化〟してうまれた芳香は、スモーキーなうずら卵の燻製と相性がすこぶるよいのです。味が濃厚に染みんだ黄身と熟成ムニエのやわらかく凝縮された果実味が、とろけるように融合します。


〝燻す〟も〝炙る〟も、新しい食文化を生み出した人類の叡智(えいち)といえます。マリアージュをより深く楽しむには、ときには歴史的観点から考察することも大切なこともしれませんね。

 

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