「生産者」「収穫年」「畑」。まったくおなじワインでも、ボトルごとに味の〝個体差〟が大きいのがオールド・ヴィンテージ。その理由は、天然コルクの材質や、保存期間中の温度、湿度、振動、光といったあらゆる要素が熟成に関与しているため。たとえ微差でも条件がちがえば、個体差が生じ、経年が長くなるほど、それがワインの風味として色濃くあらわれるのです。
今夜のオールド・ヴィンテージ。一本目はアンバー・ゴールドに輝く《ドン・ペリニヨン1988》。きゅうりのピクルス「コルニッション」を、シェリー酒ヴィネガーで漬けたかのような独特の芳香。まろやかな甘味とコクは、高級焼菓子につかわれるダーク・ブラウン・シュガーのよう。料理はしっとり甘い大阪の「箱寿司」、とりわけ「穴子」の甘みによく合います。つづく二本目。ドイツはヘッセン州立ベルクシュトラーセ醸造所の《シュタインコプフ・リースリング1982》。色調は透明感あるオレンジ・ゴールド。ドイツの漬物「ザワークラフト」を一ヶ月漬け込んだような香りと、松脂(まつやに)を彷彿とさせるかぐわしい芳香。味わいは熟成した蜂蜜レモンでつくる、レモンティー。上品な甘酸っぱさと渋みが「小鯛と昆布」の芳醇な旨味を引き立てくれます。
個体差のはげしいオールド・ヴィンテージ。一体どんな香りなのか、味なのか。開けてみるまでわからない、緊張感のただよう世界です。しかし想像を超える〝おいしさ〟に出逢ったとき、その感動ははかりしれません。そんな未知との遭遇感、すなわち高揚感こそ、オールド・ヴィンテージの最大の魅力なのかもしれません。