今夜は、ドゥモアゼル ロゼ・ブリュット NVを抜栓しました。
淡くも確かな色調がグラスに立ち上がり、米沢牛の肉寿司の艶と静かに響き合っています。
この一杯を前にすると、ロゼの本質が、はっきりと浮かび上がります。
ロゼシャンパーニュが少ない理由は、難しいからではありません。
管理すべき変数が、白より一つ多いからです。
白のシャンパーニュは、極めて高度ではありますが、基本的には「味の設計」に集中できます。
酸、果実、泡、熟成、ドサージュ。
これらをどこに着地させるかがすべてです。
一方、ロゼはそこにもう一つ、明確な変数が加わります。
色です。
ロゼの多くは、白ワインに少量の赤ワインを加えることでつくられます。
このとき赤ワインは、色だけでなく、タンニンや色素といったフェノール成分、さらには果実の厚みや質感までも同時に持ち込みます。
つまりロゼは、
色と味が同時に変化する操作によって成立する酒です。
白であれば、味のバランスを整えればよい。
しかしロゼでは、それだけでは不十分です。
たとえば、しっかりとした色調であれば、それに見合う果実の厚みや構造が必要になります。
逆に、非常に淡い色であれば、味わいもそれにふさわしい繊細さを保たなければなりません。
つまりロゼは、色と味の整合性まで同時に設計しなければならない酒なのです。
しかもこの整合性は、単純な比例関係ではありません。
赤ワインをわずかに増減させるだけで、色も味も同時に動き、しかもその動きは直線的ではない。
ほんの数%の差で、
・色は理想的でも、味が重くなる
・味はよくても、色が示す印象と噛み合わない
こうしたズレが生じやすいのです。
さらに、使用する赤ワイン自体が安定しません。
冷涼なシャンパーニュでは、色やタンニン、果実の熟度が年ごとに大きく揺れます。
つまりロゼは、毎年変動する赤ワインを使いながら、色と味の整合性を取り続けなければならない酒です。
白であれば考えなくてよい条件を、常にひとつ多く抱え込む。
これが、ロゼの本質的なやっかいさです。
こうした事情から、ロゼをラインナップに加えない生産者も少なくありません。
つくれないのではなく、
白以上に、精度と整合性を継続して成立させることが難しいからです。
では、今夜のドゥモアゼル ロゼ・ブリュット NVはどうか。
グラスにあらわれる色調と、口に含んだときの果実の広がり、そして酸の張り。
そのすべてが、無理なく一致しています。
これは、単にバランスがよいのではありません。
色という変数を含めた設計が、破綻なく成立しています。
ロゼとは、華やかさのためのスタイルではありません。
ひとつ多い〝変数〟を制御しきれるかどうかが問われるシャンパーニュです。






