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私の超オススメワインをご紹介します🥂🍷✨

ジャン・ヴェッセルが教えてくれたこと

ノン・ヴィンテージと聞くと、どこか均一なものと思っていませんか。そんな常識を静かに裏切ってくれるのが、ジャン・ヴェッセルという生産者です。ボトルの裏エチケットには「デゴルジュマンの日付」が記されており、それは単なる製造情報ではなく、時間の深みと造り手の誇りを伝えるサインでもあります。デゴルジュマンとは、瓶内二次発酵後に発生した澱(おり)を瓶口に集め、凍結・除去する工程のこと。この工程を経て、シャンパーニュは澱から解放され、最終的な味わいの輪郭を形成するのです。だからこそ、デゴルジュマンの日付は、味わいが完成した“その瞬間”をそっと教えてくれる、大切なサインなのです。

ジャン・ヴェッセルのエクストラ・ブリュットは原則として、ピノ・ノワール80%、シャルドネ20%。ドサージュは2g/L以下とおさえられ、ぶどう本来のポテンシャルと熟成による深みが、浮かび上がるように設計されています。

今回、わたしは2本を同時抜栓。ひとつは2017年5月15日デゴルジュの〝8年熟成〟、もうひとつは2020年10月13日デゴルジュの〝5年熟成〟。この3年の差がもたらす違いは、実に衝撃的でした。

5年熟成のボトルは、シャルドネ由来のレモンピールや青りんごのような張りのある酸が、ピノ・ノワールの赤系果実と共鳴し、まるで研ぎ澄まされた緊張感がグラスの中に漂っているようです。泡のタッチは軽やかで、口中ではフレッシュな果実とビターアーモンドが交差し、やや塩味をともなうミネラルが余韻を支配します。

対して8年熟成は、時間の重なりを静かに語るような佇まい。香りの第一印象からして、ブリオッシュ、カシューナッツ、マンダリンオレンジのコンポート。酸は丸く溶け込み、舌の上をゆっくりと流れるように、旨みとともに広がっていきます。ピノ・ノワールが放つ黒い果実の奥行きに、わずかにスモーキーなニュアンスも漂い、余韻には土と石を思わせる滋味深さが残ります。

ジャン・ヴェッセルの思想に触れたと感じたのは、デゴルジュマンの違いがもたらす、あの静かな感動に包まれた瞬間でした。デゴルジュマンの日付に目を留めたとき、時の流れとともに、ひとつの不思議な扉がそっと開くのです。

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