鮨といえばトロ。くちのなかでとろける脂が絶品です。赤身は江戸時代から食されていたのに対し、トロが鮨屋で供されるようになったのは昭和にはいってからのこと。脂を多くふくむがゆえ、足が早く、それまでは廃棄されていたというから驚きです。冷凍技術の向上、冷蔵庫の普及、輸送網の確立が今日のおいしいトロを生んだのです。
そんなトロにはロゼ・シャンパーニュがおすすめ。鮪の旨味と赤ワインの旨味は相性がよく、濃厚な脂はシャンパーニュのコクが重なることで、さらに重厚感ある味わいに。それでいて、細やかな泡と繊細な酸で脂のくどさを感じさせません。《モエ・エ・シャンドン》も例外ではありません。
メゾンの顔である《アンペリアル》は、口紅を彷彿とさせるルージュカラーと、フレッシュなベリー香。とても女性的な逸品です。ところが《グラン・ヴィンテージ》は、鼈甲にちかいオレンジカラーで、焦げたような樽香が印象的。とくに《2004》は苦味、酸、渋味がきわだち、男性的な〝直球ストレート〟級の力づよさ。味わい全体がほんのり湿ったようなイメージで、トロを叩いてつくる「トロたく」と相性抜群です。鮨全体がしっとりとした脂に覆われ、《2004》の質感ととてもよく調和します。一方《2006》は果実味、酸、厚み、すべてがニュートラル。余韻も続かず、一瞬、口のなかで風味が途切れてしまいます。ところが〝変化球〟かのごとく、最後に凝縮された旨味があらわれ、驚かされます。こちらはからっと乾いた印象を抱く味わいで、わずかに火を入れた「炙りトロ」がおすすめです。
「中トロ」「大トロ」だけでなく、「トロたく」や「トロ鉄火」など、〝トロ〟と名のつく鮨はきわめて種類が豊富。なかには赤身である中落ちに、脂身をまぜて作るタネもあるほど。鮪の脂がいかに旨いか、如実に物語っています。そんなトロ鮨各種と、ヴィンテージの異なるロゼ・シャンパーニュ。あれこれ試しながら、お気に入りの組み合わせを見つけてくださいね🍾🐟✨